EPISODE 08 巨大ダムのカリスマ 黒部ダム -トロリーバスの雄姿 & 観光客で賑わうダムサイト-


☆黒部ダムはインフラツーリズムの先達でもある
“くろよん” は半世紀にわたり電力供給を継続しているが、一方では、立山連峰と後立山連峰が間近に迫るダムサイトが、我が国屈指の観光地や登山ルートとして多くの来訪者を出迎える[写真上]。扇沢駅と黒部ダムを往復するトロリーバス(無軌条電車)[写真下]は54年間供用され、すでに電気バスに引き継がれた。
関電トンネルを抜けた観光客は、広大なダムサイトの開放感に浸り、ときに観光放水を楽しみ、そして殉職者慰霊碑“尊きみはしらに捧ぐ” にも足を運ぶ。現地の原風景と化した大規模ダムのフォルムをカメラに収め、FacebookやInstagramで発信する。立山黒部アルペンルートの来客数は平成末には年間100万人に迫ったとも伝えられ(立山市商工観光課)、まさしくインフラツーリズム(土木観光学)の先達であり、そしてダムツーリズムを先導している。
☆土木のレガシーを体現する巨大ダムのカリスマ
自然との過酷な戦いを克服した大規模アーチダムの建設技術は、我が国の土木技術者に連綿として受け継がれている。そもそも、戦後のダム建設の発展史は、大型土木機械による本格的機械化施工を導入した佐久間ダム(重力式ダム)・黒部ダム(アーチダム)・御母衣(みぼろ)ダム(ロックフィルダム)から始まり、大規模電力事業の礎が築かれたともいえる。黒部ダムと同規模のアーチ式コンクリートダムは、良好なダム候補地がほとんどなくなり、平成期に竣工した新潟県奥三面(おくみおもて)ダムと広島県温井ダムが最後になるかもしれない。
“くろよん” は、竣工から六十余年関西の地に電力を安定的に供給し続け、令和に入りCO₂を排出しない純国産エネルギーとして存在感を増している。巨大ダムのカリスマ・黒部ダムは、再エネとしての電力供給×観光インフラの二刀流でレガシーを積み増している。
参考文献
EPISODE 08 巨大ダムのカリスマ 黒部ダム
●「関西電力黒部第四水力発電~日本が世界銀行から貸出を受けた31のプロジェクト」:世界銀行HP
https://www.worldbank.org/ja/country/japan/brief/31-projects-kuroyon
●土木学会土木史研究委員会編『図説近代日本土木史』(鹿島出版会、2018)
●竹村陽一(インタビュー記事)「黒部ダム 堤高36mの攻防――黒部川第四発電所工事の設計変更の変遷を追う」(土木学会誌、2021年6月号)
●「黒部の太陽」〜黒部川第四発電所・大町トンネル工事:熊谷組HP
https://www.kumagaigumi.co.jp/kurobe/index.html
投稿日時 2025-04-08 17:41:38
投稿:吉川弘道(東京都市大学名誉教授)